『ラブカは静かに弓を持つ』2023.7.4(火)
category : Cello-Cafeブログ 2023.7.4
『ラブカは静かに弓を持つ』を読みました。
「2023年本屋大賞第2位」ということで、テレビで紹介されていたのをきっかけに知った本です。
主人公は、著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむため、音楽教室に潜入してチェロを習う青年・橘さん。自分の言葉であらすじを書くと全部ばらしてしまいそうなので書きませんが(笑)、音楽教室でチェロを習う人が主人公というだけで、既に感情移入してしまいます。講師との関係、仲間との関係、チェロへの思い、仕事、日常・・・、自分に置き換えやすくて、自分だったらどうするか、と考えたり、橘さんの気持ちがすごくよくわかる場面がいくつもあったりして、いろいろ噛み締めながら、時に緊張感を持って丁寧に読みました。
作者の安檀美緒さんの対談記事を読みましたが、安檀さんご自身でチェロの体験レッスンを一日受けたそうですが、一日体験レッスンを受けただけでレッスンに臨む人の気持ちや仲間との交流をあんなに上手に描けるものなんですね。
チェロ講師の浅葉先生のキャラクターは、書き始めた時点では細かく決めていなかったそうですが、本の中で橘さんと出会ってレッスンを重ねるうちに「思った以上に奥行きのあるキャラクターに育った」と仰っていて、物語を書き進めるうちに自然とそれぞれの個性が定まっていくというのは面白いなと思いました。現実世界で、初めて会った人がどんな人なのかまだわからず、何度も会って話していくうちに、少しずつ相手のことがわかってくる感じと似ている気がします。人が書いている物語なのに、本の中に独立した一つの世界があって現実とは別に時が進んでいるような気がします。