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横坂 源(よこさか げん)

category : チェロ奏者のご紹介 2016.12.13 

プロフィール

2002年7月、チェリストの登竜門として知られる全日本ビバホール・チェロコンクールでの最年少優勝(15歳)を初め、コンクールでの受賞歴多数。2005年には第15回「出光音楽賞」を、2008年には第7回「齋藤秀雄メモリアル基金賞」を受賞。2009年5月には全ドイツ学生音楽コンクールで第1位(室内楽)を、2010年9月には最難関で知られる第59回ミュンヘン国際音楽コンクール・チェロ部門で第2位を受賞し、国際的なチェリストとしてのキャリアを本格化させる。
1999年10月、13歳で東京交響楽団とサン=サーンスのチェロ協奏曲を共演したのを皮切りに、NHK交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、読売日本交響楽団、東京都交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、バイエルン放送交響楽団、ミュンヘン室内管弦楽団などを含む主要なオーケストラと、また小澤征爾、岩城宏之、秋山和慶、小林研一郎、尾高忠明、小泉和裕、大友直人、広上淳一、山下一史、梅田敏明、渡辺一正、アレクサンドル・ラザレフ、クリストフ・ポッペンなどと協奏曲を共演し、好評を博す。室内楽にもコンスタントに出演し、「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」(東京、新潟)、「東京の夏」音楽祭、「宮崎音楽祭」、「軽井沢8月祭」、「東京・春・音楽祭」、「武生国際音楽祭」や、「題名のない音楽会21」「読響 Symphonic Live ~深夜の音楽会」「クラシック倶楽部」「FM名曲リサイタル」等テレビやラジオにも頻繁に出演するなど、最も幅広い演奏活動を展開するチェリストの一人である。
豊かな音楽性やイマジネーションが卓抜したテクニックで表現され、「力強く、豊かで、円熟した音色、そして高い集中力と、何よりも情熱的で生き生きとした演奏」(ドイツ、ハレール・タグブロット紙)、「卓越した技巧に加え、鋭い感性、豊かな音楽性、質の高い表現力など、天才肌とも言える驚異的な才能の持ち主」(『音楽の友』誌)など、各誌で絶賛されている。ミュンヘン国際音楽コンクール審査委員長のパメラ・ローゼンベルクは、新聞のインタビューに答え、その演奏は「深さを示している。それに個性的なことと広がり」と特徴づけ、「まぎれもない詩人」と呼んだ。
桐朋学園女子高等学校(男女共学)、同ソリストディプロマ・コースを経て、シュトゥットゥガルト国立音楽大学、並びにフライブルク国立音楽大学で研鑚を積む。鷲尾勝郎、毛利伯郎、ジャン=ギアン・ケラスの各氏に師事。サントリーホールディングス株式会社所有の1710年 Pietro Giacomo Rogeri 制作のチェロを貸与されている。

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横坂源さんにインタビューさせていただきました。

――チェロをはじめたきっかけは?
父が大学で音楽関係の分野を教えていたので、よく家に生徒さんが遊びに来たり、父の友達が来たりしていて音楽が日常の中にありました。その中で、遊んでもらったチェロのお兄さんに憧れて、4歳のときに始めました。チェロの音色がどうとか、何もわからないまま始めた、という感じです。

――では、すぐにチェロを習わせてもらったのですか?
すごく狭い世界ですし、どういうふうに成功するかわからない世界なので、両親は悩んだようです。でも「やりたい」と言い続けて、ようやくそのチェロのお兄さんが習っていた先生の門を叩くことができました。

――ご両親は、趣味ではなく将来仕事になるだろうと、先を見越して反対されたのでしょうか?
そうだったのかもしれないですね。周りの人がみんな大変なのは知っていたと思うので、「じゃあ習わせよう」とはならなかったと思います。

――これまで幅広く活動される中で、例えばイベントなどで演奏される場合決して静かな環境ばかりではなかったと思いますが、大変な環境での演奏会はありましたか?
小学校での演奏ですね。
NPO法人の「子供に音楽を」さまからお声をかけて頂き、全国の小学校で演奏をしています。開始3分は楽器の見た目が面白いので子供たち全員の目が集まるのですが、そこから先が続かないことがありますし、そういう中で自分のメンタルが負けずに、最後まで弾き切れるかどうかがすごく難しいです。目線が散らばったり内緒話をしたり素直な反応を感じられるので、僕にとっては、わくわくもしますし、勉強の場でもあります。

――そういうときはどういった曲を選ばれるのですか?
小品をたくさん弾いたり、ドヴォルザークのコンチェルトを弾いたこともあります。ショパンのチェロソナタを説明なしに全曲演奏した時はすごくよくて、みんなで何かを共有できたと感じましたね。「白鳥」とか「愛のあいさつ」もよくリクエストされるのですが、“大人の物差し”でのリクエストなのでそこはうまく組み合わせながら選曲します。あとは学校の“色”もあるので、子供たちの雰囲気や、選曲がピタッと合った時にとても良い瞬間が生まれます。
子供は数秒で本質を見抜くので、「愛のあいさつ」も「白鳥」も怖いです(笑)。

――演奏する中で大切にされていることは何ですか?
どれだけ自分が準備をして、さらに“ほどいて”ステージに上がれるかということをすごく大事にしています。例えば、とにかく練習を重ねて・・・、とやっていくと、自分の中ではすごく安心感が生まれて演奏も安定はしてくるのですが、本番のステージでそのまま弾いてしまうとつまらない音楽になってしまうことがあります。できあがったものを“壊して”、何か新しいことが起こった時に反応できる感覚を持てるようにしておく。
ステージ上では奏者が音楽に向き合ってきた度合が全てわかってしまうものだと思います。素晴らしいプレイヤーが登場しただけで自然に涙が出てきたりしますよね。それはきっと音楽に向き合う姿勢が出ているからだと思うんです。

――“できあがったものを壊す”というのはどういうことですか?
“こうしたらこうなる”という部分をどんどんなくしていくことですね。作為的なアプローチを減らしていくような感覚でしょうか。

――普段の練習の中で、どういった練習が“壊す”ことにつながっていくのでしょうか?
難しいところを練習したり、チェロパートだけではなく他のパートの楽譜も読んだり、ハーモニーを考えたり、と色々なことをやりますが、それが体に入ってきたら今度は1つずつはずしていきます。演奏する時にひとつの要素に縛られず、音楽の中に同化していくというのでしょうか。
音楽の流れの中でどういうことが起こっているかを感じ、音に心情を込めることはすごく大事だと思います。

――それをするために、楽器の練習以外で何か気をつけていらっしゃることはあるんでしょうか?
特に気をつけていることはありませんが、海外に行って空気を吸ったり、教会の中に入ったり、色々なインスピレーションを感じるようにはしています。

――日本にいるとすごく日本的になってしまうような?
例えば“田園”でも全く違う田園があって、日本の田園なのかドイツの田園なのかというだけでも本当にイメージが違います。そこを具体的に考えイメージすることは演奏するときにすごく大事だと思います。
テンポ感も、海外にいると日本で弾くより少し前向きになります。雰囲気というか、空気感から自然にそうなります。演奏する時に五感でどれだけ感じられるかというのもテーマです。例えばバッハの曲を弾く時に、石造りでできた教会の匂いやすごく冷たい感じ、それからステンドグラスの感じとか、そういうものを感じて日本でも再現したいなと。全部イメージの世界なのですごく言葉にするのは難しいですが、そういう作業がすごく楽しいです。

――日本だと聴衆は日本人がほとんどで、“日本の感覚”しか知らない中で、聴衆にどう聴いてほしいなど思いはありますか?
それは今すごく考えているところです。楽譜の読み方や音を出すイメージについて勉強した時に、ヨーロッパで学んだことを日本に持って行きたいという気持ちがすごく強くなりました。よく、言葉がわからなくても音楽はわかる、「音楽は世界共通の言語」だと言われます。確かにそうなのですが、ドイツ人の作曲家はやはりドイツ語で曲を書いているし、皆自分が生まれた国の言語を使って曲を書いているので、実はその作曲家の使っていた言語はすごく大切で、切り離せないものだと思います。ドイツ語を知らない日本人が一生懸命ドイツ語を勉強して、ドイツ語で何かを披露するというのはすごく伝わりにくいことなので、どれだけ自分がネイティブになれるか。言葉の流れや楽譜から出てくる作曲家の雰囲気を感じて頂きたいです。

――これまでにたくさんの奏者と共演されてきたと思いますが、楽しい共演者というのはどういった方ですか?
色々な方と共演させていただいていますが、同じドビュッシーの曲目でもこの方と共演したら淡いグリーン、また違う方とは鮮やかなオレンジ色に変化します。描いているイメージがそれぞれ違うのでどなたと演奏しても楽しいです。
音楽で会話できることはとても楽しいです。

――音楽に対する強い気持ちは昔からありましたか?
留学をして音楽をとても身近に感じられるようになりました。オペラを楽しんだり、フラっと入った教会でオルガンを耳にしたり。それまで全く聴いてこなかったフルニエやカザルスなどの素晴らしい巨匠の演奏に出会ったことも大きかったです。聴いたときに、眠くなるどころか頭が冴えわたるぐらいに何かを感じ、考える楽しさを知りました。一生飽きることはないですね(笑)。

――今はどのような活動をされていますか?
ソロと室内楽を主に演奏させていただいています。トリオやヴァイオリンとのデュオ、それからドイツのシュツットガルトの街で結成したルートヴィッヒチェンバープレイヤーズにも参加していて、ベートーヴェンのゼプテット(7重奏)などレパートリーを広げていっています。

――これからどういうチェリストになっていきたいですか?
このままレパートリーを広げていく中で、その時その時自分が取り組んでいることを継続してやっていきたいです。上の世代の方々がこれまでしっかりと惹きつけてきたお客様はたくさんいらっしゃいますが、若い層のお客様が少ないので、僕らが同じ世代のお客様に聴きに来ていただけるよう発信していかなければならないと思っています。
時に命懸けで書き残した作曲家のメッセージの中から心の豊かさを得、コンサートを通して皆様と共に分かち合えることを幸せに思います。

――貴重なお話をありがとうございました。

2016 年9月取材
※インタビュー内容・写真は取材当時のものです。
※プロフィールの内容は2016年12月13日現在のものです。
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