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ミハル・カニュカ

category : チェロ奏者のご紹介 2015.7.21 

プロフィール

1960年プラハ生まれのミハル・カニュカは、ミルコ・シュカンパの指導により7歳でチェロを始める。
長じてプラハ音楽院でヴィクトル・モウチュカ教授(有名なヴラフ弦楽四重奏団のチェリスト)の下で研鑽を積む。ヨセフ・フッフロ教授(スーク・トリオのチェリスト)の下で学んだプラハ芸術アカデミー時代の1983年と1984年には、ロサンジェルスのグレゴール・ピアティゴルスキー・セミナーに参加し、アンドレ・ナヴァラ、モーリス・ジャンドロン、ポール・トルトゥリエらの指導を受けた。
1980年にプラハの春国際音楽コンクールで名誉賞を受賞。その一年後、チェコスロヴァキア(当時)国内コンクールで全部門から選ばれるグランプリを獲得した。それに続き、1982年モスクワでのチャイコフスキー・チェロ・コンクール、1983年プラハの春国際音楽コンクール(第1位)などで上位入賞を果たす。
1986年にはミュンヘン国際音楽コンクールの勝者となった(第1位なしの第2位)カニュカはヨーロッパのトップ・オーケストラと共演を重ねてきた。チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、プラハ放送交響楽団、バイエルン放送交響楽団、ベルリン・ドイツ交響楽団、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー交響楽団、ローザンヌ室内管弦楽団、プラハ室内管弦楽団、プラハフィルハーモニー管弦楽団などであり、リサイタルもドイツ、オーストリア、デンマーク、スイス、オランダ、イタリア、フランス、スペイン、ポルトガル、南北アメリカ、日本など世界各国で開いてきた。またブルノ・フィルハーモニー管弦楽団では1995年~2005年迄、レギュラー・ソリストを務め、プラハ放送交響楽団では2003年から指定ソリストとして活躍している。
放送関係でもチェコ・ラジオ、フランス公共ラジオ、バイエルン/ヘッセン/南西ドイツ放送協会、オランダAVRO放送などで数多くの録音を行っている。またスプラフォン、ボントン、パントン、ヌォヴァ・エラ(イタリア)といったレーベルから多数のCDがリリースされているが、現在は仏プラーガ・デジタルズ(販売はハルモニア・ムンディから)専属となっている。最近の録音としては、ボッケリーニのチェロ・ソナタ7曲、ミスリヴェチェクのチェロ・ソナタ6曲(世界初録音)、コダーイのチェロ作品などがあるが、それらのCDが数々の賞を受けている。ボッケリーニのチェロ・ソナタ第2集、及びマルティヌーのチェロとピアノの為の小曲集がショック賞(ル・モンド紙の音楽専門誌による)と金のディアパソン賞を、ベートーヴェンのチェロ・ソナタと変奏曲集はショック賞を、更にラフマニノフとミャスコフスキーのソナタ集、ルビンシュタインのソナタ集、ハイドンのチェロ協奏曲、ブラームスのソナタ集が金のディアパソン賞、フランク、サン=サーンスとボエルマンのソナタ集、ヴァインベルクのソナタ集がショック・ドゥ・モア賞を獲得している。
2010年には、ショスタコーヴィチとブロッホのCDが新たにリリースされるなど、いずれのレコーディングも非常に高く評価されている。
室内楽分野でもその活動は精力的だ。プラジャーク・クヮルテット、更にベートーヴェン弦楽トリオのメンバーとして世界中の主要なコンサートホールに立ち、プラーガ・デジタルズで数々のCDを録音している。
使用楽器はフランスのクリスチャン・バヨン2006年製で、同じくフランスのニコル・デュシュリュー2000年製の弓を使用する。
ミハル・カニュカは2014年よりプラハの春国際音楽コンクール常任委員会委員長という要職も務めている。

カニュカさん掲載用

 

ミハル・カニュカさんにインタビューさせていただきました。

――チェロを始めたきっかけを教えてください。
父がヴァイオリニストで、息子たちに楽器をやってほしかったようなんです。私は3人兄弟の末っ子なんですが、一番上の兄から順番に楽器を選んでいき、ヴァイオリン、ピアノ、と埋まっていって私のときにはもうチェロしか残っていなかったんです。そんな非常に簡単な理由でチェロを始めました。

――もともとチェロに興味があったわけではないのですか?
子供でしたから、たいしてチェロをやりたいという思いはなかったと思います。でも、ヴァイオリンもピアノも大変ですし、今はチェロで良かったと思っています。

――何歳から始められたのですか?
6歳からです。

――その当時からプロになろうと思われていたのでしょうか?
最初からプロになろうと思っていたわけではありません。学校に入ってから、コンクールの受賞歴を少しずつ積み重ねることで、自分はソロでもやっていけるのではないか、と考えるようになって、それからプロでやっていこうと思いました。

――カニュカさんの音色は、深みがあって、暖かくて、力強かったり、柔らかかったり、どこからそういう音が生まれてくるのでしょうか?
それは“自分”がそういう音を出しているというより、“音楽”がそういうものだからだと思います。音楽には、悲しみも喜びも、他にもいろいろな感情があり、それらをきちんと読みとるとそういう音になるんだと思います。だから作曲家に感謝すべきなんです。

――カニュカさんはプラジャークカルテットでもご活躍ですが、アンサンブルをする上で気を付けていることはありますか?
室内楽というのはチームプレーですから、例えばリズムやその作品が持っているキャラクター(性質)、背景などをメンバーで共有しています。チェロはカルテットにおいて主導権を握るようなパートではないのですが、チェロとしては他の人を後押しする、つまり、援護射撃するような、そういう役目だと思っています。
今回の来日公演で各地で演奏しているベートーヴェンのソナタも“室内楽”です。“チェロの曲”というよりは“アンサンブルの作品”だと私は感じています。

――チェロを弾くことに対してお勧めの練習方法はありますか?
私はチェコ国立プラハ芸術アカデミー(※1)で教えていますが、チェコ国内のコンセルヴァトワール(※2)を卒業した人たちが通ってきているのでだいたい20代の人を教えています。子供を教えるのと、アカデミーの学生を教えるのとでは全然練習の内容が違います。
コンセルヴァトワールで10代の人たちに対しては、左手がどうであるとか右手がどうであるとか、例えば発音する瞬間にどういうふうに右手を使うかというようなことを指導しますね。アカデミーになるとプロになるための実践の教育になっていきます。アカデミーに通ってくる学生はコンセルヴァトワールを卒業して来ているわけなので、指をどこに置くとかそういうことはもう一切言わないです。表現方法やフレージング、様々な音色についてなど、そういうことを主にやっています。
お勧めの練習法というわけではありませんが、演奏者が音楽をよく理解して自分が楽しんでいたら、絶対にお客様には伝わるものなんです。そこがすごく大事です。

――「音楽」は日本語で「音を楽しむ」と書くのですが、カニュカさんは演奏をすごく楽しんでいらっしゃる感じがあって、どういう気持ちで演奏されているのでしょうか?
日本語の「音楽」ってすごくいい言葉ですね。まさにそういう事なんです。だいたい学生さんは音程が崩れないようにとか、そういうことばかり考えて弾いていることが多いのですが、それはそれとしてまた別のことです。まず大事なのは楽しむこと。音楽をする上で「主」と「副」があったら、「主」は楽しむこと、「副」は演奏技術をチェックすることです。だから音程とか技術の方が「主」ではないんです。
私もコンサートを聴きに行きますが、そこで何か起こったとしても許すことができるし、コンピューターではないから完全なものを求めて聴きに行っているわけではない。音楽の楽しさとか音楽できる喜びを演奏者が持たない限りその舞台は本当につまらないものになります。そのことを特に学生にはよく言っているんです。

――曲を楽しんでいるということなんですか?
曲というより“音楽”ですね。舞台に上がったら別世界に行って、音楽することを本当に喜びながら演奏するんです。確かに、例えばその音程をもう少し高くとかそういうことを言ったりもしますが、それが全てではなくて目指すところはやっぱり音楽を楽しむことだと思います。
楽器を始めた最初の頃はどうしても音程などの技術的な部分を指導しますけれど、それが終わった次の段階というのは、そこからどうやってもう一段階引き上げていくかだと思います。
言うのは簡単ですが、難しいことですよね。時々私も忘れてしまうんですよ(笑)

――カニュカさんにとってチェロはどのような存在でしょうか?
「第2の奥さん」、若しくは「木でできた奥さん」です。こうして旅に出てしまうとチェロしかないですからね。チェロを通じて自分の考えや感覚を表現できる、そういうものです。チェロがあるからこそそういうことができる。状況によっては言葉にすることが難しい瞬間がありますよね。そういうときでもチェロはちゃんと自分の言いたいことを言ってくれる。そして、学生に対しても言葉で言っても埒が明かないときには弾いてみせる。それでみんなわかってくれます。

――私はアマチュアですけれども、チェロで感情が表現できると思うときがあるのですが、私の場合は未熟すぎてそれが相手に伝わりません(笑)。
(笑)時間のかかることですし、経験のいることですのですぐにできることではないですが、それは道としては正しいことだと思います。
――死ぬまでに少しでもやれるように頑張ります(笑)。
音楽というのは楽しいことだけではなくて、悲劇的なこと、ドラマティックなこと、痛みを感じる様なこと、全て含まれて音楽です。演奏することで自分が満足するという面ももちろんあるんですけれども、色々な体験を通して考え自分の中で熟成したものというのは、お客様を前にすると自然と出てくるものなんです。楽しいからといって、別に楽しそうな顔をして表現しているわけではないけれど、やっぱりそうやって考えて弾いたものというのは何かしら伝わります。

――カニュカさんにとって幸せな時間はどんなときですか?
難しい質問ですね(笑)。
世界ではいろいろなことが起こっていて、自然の災害などはいつでもどこでも起こり得るわけですが、家族といるときであれコンサートホールで演奏しているときであれ、自分の周りの人が持っている「気」が、気持ちがよくて暖かいものであれば、そういうときに幸せを感じます。
そういう幸せな瞬間を大事にする、ちょっとしたことや当たり前のことでも幸せに感じて暮らす、というのはすごく大事なことです。何でもストレスと感じてしまえばそれはストレスですが、それを良いように捉え、ストレスさえも喜びに感じる。演奏するときに、不安よりも、人前で演奏できることを喜ぶ、そうやって思っている方が人生は楽しいものになると思います。

――音楽を学ぶ学生の方々、それからアマチュアの方々へメッセージをお願いします。
私たちのこの仕事は職人と同じなんです。職人というと大工さんなど物を作ったりする方々ですが、それと全く同じですごくエネルギーがいりますし時間のかかる仕事なんです。だから、敢えて自分の人生を歩む道としてこの職業を選ぶ人たちを、1人1人非常に尊敬します。そこには大変な苦労があって耐えなければいけないこともありますが、やっぱりそれでも続けて頑張っていけば報われることはたくさんあると思うので、それを信じて頑張ってほしいです。先程も言いましたが、喜びや幸せをどう感じるかというのはすごく大事で、どんな状況でも幸せだと思う気持ちが大事だと思います。
アマチュアも一緒ですよ。アマチュアというのは最初から自分がやりたくてその楽器を選んでいることが多いですよね。だからその気持ちを本当に大事に、楽器を続けるといいと思います。
プロになる人の中には、自分でその楽器を選んでいない人もいます。私も親がチェロを与えてくれてチェロを弾くことになりましたし。喜びをもって、自分が弾きたくて弾いている、という気持ちをつい忘れてしまうことがあるので、プロはそういうことを逆に気を付けていないといけないと思います。

――貴重なお話をありがとうございました。

(チェコ語通訳:榊原祐子さん)

※1チェコ国立プラハ芸術アカデミー: コンセルヴァトワールで音楽を専門に学んだ学生が、さらに音楽家としての磨きをかけるために学ぶ最高の音楽教育機関。日本でいう大学・大学院に相当する。
※2コンセルヴァトワール:音楽を専門に学ぶ学校。主に15~20歳の学生が通う。

2015年6月取材
※インタビュー内容・写真は取材当時のものです。
※プロフィールの内容は2015年7月21日現在のものです。
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