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フランソワ・サルク

category : チェロ奏者のご紹介 2020.1.29 

プロフィール

フランス出身。イエール大学および国立パリ音楽院でディプロム取得。
ジュネーブ国際コンクール、チャイコフスキー国際コンクール、ミュンヘン国際コンクール、ロストロポーヴィチ・コンクール、レオナルド・ローズ・コンクールなどで入賞あるいは特別賞を受賞。ピエール・ブーレーズに、「繊細さと優雅さのある演奏」、「桁外れのカリスマ」と絶賛される。
約60カ国で演奏を行い、数多くの録音も残している。とくに、エリック・ル・サージュ、アレクサンドル・タロー、エマニュエル・パユ、ヴァンソン・ペイラニ氏らと共演した室内楽の演奏・録音は、ディスク大賞を受賞したほか、ディアパゾン・ドール、ショック・ドゥ・ラ・モンド・ドゥ・ラ・ミュジーク、10のレパートリー、シャルル・クロス・アカデミー賞、ヴィクトワール・ドゥ・ラ・ミュジーク、シチズン・ジャズ賞、BBCパルム・ドールなど、フランス国内外の音楽雑誌、音楽祭で高い評価を得ている。
イザーイ弦楽四重奏団で5年間チェリストを務める。
ティエリー・エスカイヒ、カロル・ベッファ、ニコラ・パクリ、ジャン・フランソワ・ズィーゲル、クリストフ・マラカ、ブルーノ・マントヤーニなど現代作曲家の作品へのアプローチや、現代音楽と伝統音楽の融合に精力的に取り組んでいる。
演奏活動の傍ら、現在、スイス・ローザンヌ音楽院、パリ国立音楽院で後進の指導にあたっている。
フランソワ・サルクは、類いまれな音楽性・テクニックによる電撃的な演奏で、音楽界では一目おかれているチェリストである。

 

サルクさんお写真掲載最終

 

フランソワ・サルクさんにインタビューさせていただきました。

――チェロを始めたきっかけを教えてください。
チェロを始めたのは6歳くらいのときです。トランペットとか別の楽器もやりたかったのですが、なぜチェロを選んだのかはわかりませんし、自分からやりたくて始めたのか両親の影響なのかもはっきりしません。
子供の時に、好きなものに対して「なぜ好きなのか」という部分がわかる子供は非常に稀だと思います。例えば6歳の子供は、人生や死について言葉を聞いたことがある程度ではっきりと理解していないのに、その時点で人生で大切なものがわかる、ということはほとんどないように思います。
今もチェロを続けているのは、人生の中で2,3回“チェロをやめない”という決断をしたというのが実際のところです。自分にとっては、例えば12歳のとき、それから20歳のときがそうでした。

――何と迷って「チェロをやめない」という決断したのですか?
やりたいことが色々ありました。例えば、政治や科学、外国語です。アメリカのイエール大学にいたときに、中国語の勉強にすごく集中していた時期が1年半ほどあり、毎日、大学で2時間さらに自分で2時間中国語を勉強していました。その時期は音楽家としてのキャリアがもう始まっていてどちらも続けるというのは難しかったので、中国語も続けたかったのですがそちらをやめました。

――以前にサルクさんの演奏会に初めて伺ったときに、サルクさんの声とサルクさんのチェロの音色がすごく似ていて驚きました。
今使っているチェロは18歳のときに買ったチェロで、19世紀のフランス製の楽器です。声が似ているという点に答えるとすると、楽譜に書かれている音をそのまま弾くのではなくて、書かれている音をどんなふうに自由に捉えるかということが大切だと思います。そうするとそれがその人の声になるのではないかと思います。

――現代曲をよく演奏されているようですが、現代曲というと難しいように思ってしまいますが、その魅力とはなんでしょうか?
例えば今アコ―ディオニストと弾いている曲や、四重奏で弾いている曲は現代曲ですが、それはとても聴きやすく、現代曲といってもそれほどとっつきにくくはない曲ばかりです。
超現代曲みたいな曲を演奏するときに、何人かいる聴衆の中で僅かな人のみそういう音楽が好きだというのは感じます。けれどもほとんどの人は「まあよかったんじゃないか」と口では言いますが、たぶんそれは本心からではないというのもわかります。
だからと言って、聴衆が喜ぶ曲ばかりを選ぶのは演奏家としてどうかなと思っています。と言うのは、やはり少しとっつきにくい曲があったとしてもそれも芸術の中の一つであって、そういうものをやっていくことに意義があると思います。それは音楽家や演奏会を作る人たちの役目でもあると思っています。時間が経つにつれて、どういう音楽が好まれていくかというのは想像がつかないので、チャレンジするのも役割だと思います。

――アコーディオンやギター、ピアノなどとアンサンブルされていますが、アンサンブルにはどのような魅力がありますか?
観客にとって室内楽というのは面白いですよね。作曲家に対して我々奏者がどういう風に曲を捉えているかというのを表現するわけですから。
演奏家にとっては他の楽器と演奏できるという喜びがありますよね。それからミュージックパートナーと一緒に音楽をすることから生まれる喜びもあります。もちろん意見が違うこともありますが、音が混ざり合って何かが生まれるという喜びがあります。

――最近興味のあることはなんでしょうか?
作曲や編曲にも少し興味を持っています。私は、これまで既に書かれた音楽を勉強してきましたが、そこから即興することを学んで演奏しているうちに、次は“自分で書く”ということに興味が湧いてきています。

――日本の音大の学生さんやアマチュアの音楽家にメッセージをお願いします。
西洋音楽というのは、“西洋音楽”という純粋な一つの要素からだけでできているわけではなく、アジアとか東の方からきた音楽との繋がりの多い、混ざったものです。16世紀から19世紀の4世紀の間に世界の色々なところで文化的な繁栄が見られました。西洋の文化は、様々な文化が融合して生まれたものなのです。そして色々な民族の素晴らしいところが集まったものが“ロマン派”に表れています。全ての感情がコントロールされてできあがったものがロマン派の感情だと思います。
今、そういう素晴らしい作品に触れることができる環境があるということだけでもとても素晴らしい、ということを自覚してほしいと思います。
その4世紀間の傑作が生まれた時期には、同時にそれらをわかる聴衆も育てました。そしてそれは今も世界に広がっていると思います。例えば100年前に学者が「おそらく18、19世紀の音楽はこの先もう聴かれなくなって衰退していくだろう」というふうに言っていたけれども、現代を見ていてわかるように逆の方向へ行っています。今クラシック音楽は色々な国で好まれているので、クラシック音楽にはまだまだ未来があるのではないかと思います。
インターネットの普及もあってだんだん音楽も国際化してきて、国による違いは今はどんどん少なくなっています。みんなが似通っていきますが、それは悪いことではなくこれからもっとよい方向にいくのではないかなと思います。音楽で大切なのは、国がどうだとかいう問題ではなくて、音楽を聴く1人1人がどういう風に感じるかというのが一番大切なことだと私は思います。

――貴重なお話をありがとうございました。

(フランス語通訳:ピアニスト 成嶋志保さん)

 2019年10月取材
※インタビュー内容・写真は取材当時のものです。
※プロフィールの内容は2020年1月現在のものです。
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